個人事業主が、固定資産を売却した時の仕訳と台帳処理、6つの具体例です。
固定資産を売却した時の、仕訳と台帳処理
個人事業主と法人では、会計処理が全く違います。
固定資産を売却した時には、仕訳して帳簿に記録します。
この固定資産の売却の仕訳は、個人と法人で、やり方が全く違います。
法人では固定資産売却益、固定資産売却損を使いますが、個人ではこの勘定科目は一切使いません。
個人事業主の固定資産売却は、事業主勘定で会計処理します。
ここは、注意しましょう。
固定資産を帳簿の残存価額以上で売却すると、その差額分が利益になります。
逆に、固定資産を帳簿の残存価額以下で売却すると、その差額分が損失になります。
個人事業主が、固定資産を売却した時の利益や損失は、事業での利益や損失にはなりません。
事業での収入になるのは、販売目的の商品や製品だけで、販売目的ではない固定資産の場合は、「譲渡所得」になります。
固定資産の売却損益は、譲渡所得に。
個人の資産売却は、渡所得です。
個人事業主の場合、事業での利益は「事業所得」ですが、事業での固定資産売却は「譲渡所得」として、それぞれ区別して確定申告が必要なのです。
ここが個人の固定資産売却の面倒なところです。
法人の場合は、全て法人の事業として会計処理できます。
また、償却の特例制度を活用した場合は、固定資産税の課税や残存価額が、通常の定額法とは違います。具体例を紹介していきます。
ここでは、固定資産を売却する具体例を紹介しますが、売却と、廃棄処分では、仕訳が違います。
廃棄処分する場合の仕訳は、「個人の複式簿記、固定資産の廃棄処分の仕訳」を見てください。
これで私は青色申告しています。
定額法の資産を償却前に売却、仕訳と固定資産台帳から削除
資産を償却前に売却する時の、仕訳の具体例を紹介します。
仕訳の具体例1
約2年前に12万円で購入した定額法のパソコンを、今年の6月に現金3万円で売却しました。
固定資産台帳への登録内容です。
- 勘定科目、工具器具備品
- 減価償却資産の名称、パソコン
- 面積または数量、1台
- 取得年月、2年前の5月
- 取得価額、120,000円
- 償却の基礎になる金額、120,000円
- 償却方法、定額法
- 耐用年数、4年
- 事業専用割合、90%
これまでの家事按分前の減価償却費の累計は、
- 2年前の減価償却費は、20,000円(8ヶ月分)
- 昨年の減価償却費は、30,000円(12ヶ月分)
昨年末の時点での、このパソコンの減価償却費の累計は5万円で、未償却残高は7万円です。
借方 |
貸方 |
---|---|
現金 30,000 |
工具器具備品 70,000 |
右の貸方には、帳簿価額の7万円分の工具器具備品の勘定科目です。
左の借方には、売却額3万円の現金と、残金4万円の事業主貸の勘定科目です。
帳簿の残存価額が7万円のパソコンを、3万円で売却しているので、帳簿上は4万円の損失が出ます。
この4万円の損失は、事業の経費にせずに、事業主貸の勘定科目で、個人事業主のプラーベートな損失として、会計処理します。
この4万円は、事業主の譲渡所得となり、他の譲渡所得と年間通算します。
譲渡所得は、利益が50万円以下なら非課税になります。
このパソコンを売却したのは、今年の6月です。
上の仕訳のように、前年末の時点での帳簿価格で会計処理してもいいのですが、今年の6月までの減価償却を計上できます。
個人事業主では、帳簿との差額が事業の損失にできずに、プラーベートの損失になるので、なるべく、減価償却費を多く計上した方が節税になるからです。
今年の6ヶ月分を減価償却する仕訳です。
今年の減価償却費は、15,000円(6ヶ月分)
事業割合が90%なので、13,500円が事業での減価償却費。
売却月までの減価償却費13,500円を、今年の事業所得の必要経費にできます。
借方 |
貸方 |
---|---|
現金 30,000 |
工具器具備品 70,000 |
この仕訳のように、売却月までの減価償却費を事業所得の必要経費とした方が、個人事業主の場合は、節税できてお得になります。
事業主貸の26,500円のうち、1,500円は減価償却分なので、譲渡所得は事業主貸26,500円のうち、25,000円分になります。
仕訳の具体例2
約2年前に12万円で購入したパソコンを、今年の6月に現金10万円で売却しました。
この具体例2は、具体例1のパソコンが、10万円で売却できた場合です。
この時の仕訳と、固定資産台帳から削除する具体例を紹介します。
昨年末の時点での、このパソコンの減価償却費の累計は5万円で、未償却残高は7万円です。
借方 |
貸方 |
---|---|
現金 100,000 |
工具器具備品 70,000 |
左の借方には、売却額10万円の現金の勘定科目です。
右の貸方には、帳簿価額の7万円分の工具器具備品と、帳簿との差額3万円分の事業主借の勘定科目です。
帳簿価額が7万円なので、売却額10万円との差額の3万円が利益です。
この3万円の利益は、事業での収入にはせずに、個人事業主のプラーベートの利益として、会計処理します。
そして、その利益は「譲渡所得」として、事業所得とは区分して、確定申告します。
今年の6ヶ月分を減価償却する仕訳です。
次は、今年の6ヶ月分の減価償却費を、事業の経費として計上する場合の仕訳です。
借方 |
貸方 |
---|---|
現金 100,000 |
工具器具備品 70,000 |
この仕訳のように、今年の減価償却費も経費にした方が、事業所得では節税できてお得になります。
譲渡所得は、他の譲渡所得と年間通算して、利益が50万円以下なら非課税になります。
売却したら固定資産台帳から削除
売却の仕訳が終わったら、忘れずに固定資産台帳から削除します。
固定資産台帳からの削除を忘れると、固定資産税の対象として残ってしまうので、忘れずに削除しましょう。
減価償却が終わった固定資産の売却、仕訳と固定資産台帳から削除
仕訳の具体例3
約6年前に12万円で購入したパソコンを、今年の6月に現金1万円で売却しました。
償却が終わった資産を売却する時の、仕訳の具体例を紹介します。
この具体例のパソコンは、取得価額は12万円ですが、6年前に購入し、定額法4年で減価償却が終わり、現在の帳簿の残存価額は、備忘価格の1円です。
このパソコンが10,000円で売れた時の仕訳です。
借方 |
貸方 |
---|---|
現金 10,000 |
工具器具備品 1 |
左の借方には現金の勘定科目、右の貸方には工具器具備品と事業主借の勘定科目です。
現在の帳簿価額は1円なので、1円だけ工具器具備品を削除します。
そして、差額の9,999円は事業主借として、事業主のプラーベートの利益として仕訳します。
9,999円が、個人事業主の譲渡所得になります。
帳簿の仕訳が終わったら、固定資産台帳からも、忘れずに削除します。
一括償却資産を売却した場合
購入費20万円未満の固定資産の特例
仕訳の具体例4
昨年に12万円で購入した一括償却資産のパソコンを、今年の6月に現金3万円で売却しました。
一括償却資産を3年以内に売却する時の、仕訳の具体例です。
固定資産台帳への登録内容
- 勘定科目、工具器具備品
- 減価償却資産の名称、パソコン
- 面積または数量、1台
- 取得年月、昨年の5月
- 取得価額、120,000円
- 償却の基礎になる金額、120,000円
- 償却方法、一括償却
- 耐用年数、ー
- 事業専用割合、90%
これまでの家事按分前の減価償却費の累計は、
- 昨年の減価償却費は、40,000円( 取得価額の3分の1)
昨年末の時点での、このパソコンの減価償却費の累計は4万円で、未償却残高は8万円です。
一括償却資産は3年で減価償却しますが、たとえ、途中で売却しても、3年間の減価償却は変えることができません。
この具体例4のように、一括償却の場合は、1年で売却しても、固定資産からは削除できず、3年間で減価償却することになるのです。
3年間で減価償却が終わった時には、全額が償却されるので、資産に1円の備忘価格は残りません。
また、一括償却資産の売却は、事業所得の雑所得として会計処理します。
他の償却方法の固定資産と違い、譲渡所得にはならないので注意しましょう。
借方 |
貸方 |
---|---|
現金 30,000 |
雑収入 30,000 |
この仕訳で、売却額の全額が、事業での収入として会計処理されます。
左の借方には現金の勘定科目、右の貸方には雑収入の勘定科目です。
売却後も3カ年で全額を償却するので、工具器具備品の勘定科目の会計処理は不要です。
また、一括償却資産は、資産の部の工具器具備品の勘定科目に1円の帳簿価格が残りません。
固定資産台帳は、引き続き減価償却が続くので削除できません。
固定資産台帳からの削除は、3年の減価償却が全て終わってからになります。
ただ、一括償却資産は固定資産税の対象外なので、台帳に残っていても固定資産税はかかりません。
仕訳の具体例5
4年前に12万円で購入した一括償却資産のパソコンを、今年の6月に現金1万円で売却しました。
一括償却資産を3年経過以後に売却する時の、仕訳の具体例です。
具体例4のパソコンを、3年経過以後に売却した場合です。
一括償却期間の3年が経過しているので、すでに全額の減価償却が終わっています。
一括償却資産は、備忘価額1円が残らないので、帳簿上は0円です。
しかし、一括償却資産の売却は、譲渡所得ではなく、事業所得の雑収入になることに注意しましょう。
借方 |
貸方 |
---|---|
現金 10,000 |
雑収入 10,000 |
左の借方には現金の勘定科目、右の貸方には雑収入の勘定科目です。
このように、事業の収入の仕訳として会計処理します。
この時点で、固定資産台帳からも削除すれば、売却の処理は終わりです。
即時償却資産を売却した場合
購入費30万円未満の固定資産の特例
仕訳の具体例6
昨年に25万円で購入した即時償却資産のパソコンを、今年の6月に現金15万円で売却しました。
即時償却資産を売却する時の、仕訳の具体例です。
固定資産台帳への登録内容
- 勘定科目、工具器具備品
- 減価償却資産の名称、パソコン
- 面積または数量、1台
- 取得年月、昨年の5月
- 取得価額、250,000円
- 償却の基礎になる金額、250,000円
- 償却方法、即時償却
- 耐用年数、ー
- 事業専用割合、90%
少額減価償却資産の特例で、即時償却をしているので、取得価額の全額の減価償却が終わっています。
即時償却の場合は、備忘価額1円はないので、現在の帳簿価額は0円です。
一括償却資産の売却は、譲渡所得ではなく、事業所得となります。
しかし、即時償却した固定資産の売却は、定額法と同じで、譲渡所得です。
借方 |
貸方 |
---|---|
現金 150,000 |
事業主借 150,000 |
帳簿価額0円なので、売却額の全額が利益として、譲渡所得になります。
譲渡所得は、個人事業主のプラーベートの利益として、事業主借の勘定科目で会計処理します。
左の借方には現金の勘定科目、右の貸方には事業主借の勘定科目です。
売却の仕訳をして、固定資産台帳からも削除します。
即時償却では、取得した年に全額を減価償却にできますが、固定資産税は所定の耐用年数までかかります。
固定資産台帳からの削除を忘れると、固定資産税がかかるので、忘れずに台帳から削除しましょう。
売却と廃棄では、会計処理が違います。
ここでは、固定資産を売却する具体例を紹介しましたが、売却と、廃棄処分では、仕訳が違います。
廃棄処分する場合の仕訳は、「個人の複式簿記、固定資産の廃棄処分の仕訳」を見てください。
会計処理や帳簿は、アプリを使いながら覚えましょう。
いろいろ悩むより、会計アプリを無料で試してみましょう。
会計処理は、難しくて面倒に感じますが、自分で実際に帳簿を作ってみるのが、一番早く覚える方法です。
会計アプリを使えば、誰でも簡単に帳簿が作れますよ。
これで私は青色申告しています。
たくさん税金払うの好きですか?