オーケストラに寄付した時の、確定申告書の記入例を、具体的に丁寧に紹介します。
オーケストラへの寄附の具体例
東京都交響楽団へ1万円寄附
1万円を寄付しても、3,200円の税金優遇があるので、寄附金の実質の負担は6,800円だけです。
都響に1万円寄付した結果
- 寄付金、10,000円
- 節税効果、3,200円
- 実質負担、6,800円
- (特典)チケットの優先予約
- (特典)チケットやCDが特別価格
寄附には特典があり、コンサートチケットが優先予約できるようになります。
一般発売の前、会員先行発売の時点で、チケットを購入できます。
また、チケットが10%オフの割引価格で購入できます。
つまり、先行予約の権利と、1割引でのチケット購入が、実質6,800円で手に入ります。
都響のファンなら結構お得な制度ですね。
「寄附金控除」税制優遇の対象となるオーケストラ
寄付金に対して、税金優遇がある楽団の条件です。
寄附金控除の対象楽団
- 「公益法人」の楽団への寄附金が対象
- 所得税は、日本全国の公益楽団が対象
- 住民税は、対象楽団が地域で違う。
NHK交響楽団、東京都交響楽団、読売日本交響楽団、日本フィル、新日本フィル、東京フィルなど、多くの主要なオーケストラは、公益法人として認定されています。
このような、公益法人に認定されているオーケストラへの寄付は、寄附金控除の制度で、減税メリットを活用できます。
ただし、日本オーケストラ連盟の正会員であっても、公益法人に認定されていない楽団もあります。
例えば、東京シティフィルは日本オーケストラ連盟の正会員ですが、公益法人に認定されていません。
そのため、東京シティフィルへ寄付をしても、寄附金控除制度の対象外なんです。
所得税は、国の税金なので、公益法人であるオーケストラの本拠地が日本全国のどこであっても、寄附金控除の対象になります。
しかし、住民税は、それぞれの都道府県・市町村の税金なので、対象となるオーケストラが、地域によって違います。
住民税の減税は、それぞれの地域が条例で指定したオーケストラが減税の対象です。
ほとんどの自治体が、その自治体に本拠地があるオーケストラだけを、減税対象として、条例で指定しています。
例えば、東京都に本拠地があるオーケストラへの寄付の場合、東京都在住者なら住民税の減税対象になり、大阪府在住者では、住民税の減税は活用できません。
これは不公平な気がしますが、住民税は、それぞれの地域で対象の楽団が違うので、仕方ありません。
所得税の減税制度
税制優遇の対象となる税金の種類は、所得税と住民税の2種類です。
寄附金控除の仕組み、所得税
その年に支出した特定寄附金の額の合計額から、2,000円を差し引いた金額が所得から控除できます。
寄附金控除の計算式
(寄附金の合計額)ー(2,000円)=(寄附金控除額)
この「寄附金控除額」が、所得控除にできます。
これが、寄附金控除の基本です。
ただし、この基本計算式の他に、楽団への寄附は特例計算式も選択が可能です。
ほとんどの人は、楽団への寄附は、公益法人の特例計算式を活用した方が、より節税ができます。
公益社団法人等への寄附の特例、所得税
年間所得4,000万円以下の人なら、この公益法人特例を選択します。
公益法人の特例の計算式
【(寄附金の合計額)ー(2,000円)】x 40%
=(公益法人等寄附金特別控除額)
この「公益法人等寄附金特別控除額」を、所得税額から控除できます。
いわゆる税額控除なので、圧倒的な減税効果があります。
この特例は、計算式から分かるように、所得税率「40%」の節税金額に相当します。
所得税率が40%未満の、年間所得が1,800万円以下の人なら、この特例の方がお得です。
また、所得税率が40%ちょうどの、年間所得4,000万円以下の人は、この特例でも、基本計算式の所得控除でも、どちらも同じ節税効果になります。
年間所得4,000万円を超える人は、所得税率が45%なので、この特例ではなく、基本計算式を選択しましょう。
住民税の減税制度
次は、住民税の計算です。
都道府県・市区町村が条例で指定する寄附金
住民税は、居住地の自治体が、条例でそのオーケストラを指定している場合にだけ、減税になります。
住民税の計算式
- 都道府県の税額控除=【(寄附金の合計額)ー(2,000円)】x 4%
- 市区町村の税額控除=【(寄附金の合計額)ー(2,000円)】x 6%
東京都を本拠地にする公益法人オーケストラは、住民税の減税対象団体と、東京都から条例で指定されています。
東京都は、公益財団・社団法人だけで2268団体を条例で指定しています。
市区町村の条例指定は厳しい。
東京都内でも、ほとんどの市区町村が、市区民税の寄附金控除を認めているのは、オーケストラの本拠地が、当該市区町村にある場合だけです。
- 東京都港区、NHK交響楽団
例えば、港区は、東京都が指定する公益財団・社団法人のうち、港区内に本拠地がある373団体を条例で指定しています。
NHK交響楽団は本拠地が港区なので、港区から市区町村の税額控除の団体として、指定されています。
- 東京都墨田区、日本フィル
また、墨田区も、東京都指定の団体のうち、本拠地が墨田区にある団体は、条例で指定されています。
日本フィルハーモニー交響楽団は、墨田区が本拠地なので、墨田区の市区町村の税額控除の指定団体です。
- 東京都台東区、東京都交響楽団
台東区は、2つの社会福祉法人だけしか条例で指定していません。
東京都交響楽団は、台東区が本拠地です。
しかし、都響は、台東区からは、市区町村の税額控除の団体に指定されていません。
具体例、所得税・住民税の税制優遇を計算
具体例1、東京都在住者が東京都交響楽団に1万円を寄附
寄付結果のまとめ
東京都在住者が東京都交響楽団に1万円を寄附した場合
- 寄付金、10,000円
- 所得税、3,200円減税
- 住民税、320円減税(都指定分)
- 実質負担、6,480円
所得税の節税は、公益法人等寄附金特別控除額を選択すると、計算式は、次の通りです。
【(寄附金の合計額)ー(2,000円)】x 40%
寄付金が1万円の場合は、所得税が3,200円減税されます。
住民税の節税は、東京都交響楽団は東京都の条例で指定された団体なので、都民税は減税対象です。
【(寄附金の合計額)ー(2,000円)】x 4%
寄付金が1万円の場合は、住民税(都)が320円減税されます。
東京都交響楽団は、東京都内の市区では、市区民税の減税対象に指定されていません。
たとえ本拠地のある台東区であっても、区民税の減税対象にはなりません。
結果として、東京都在住者が、東京都交響楽団に1万円の寄付をすると、3,520円の節税効果があるので、実質負担は6,480円です。
具体例2、大阪市在住者が東京都交響楽団に1万円を寄附
寄付結果のまとめ
- 寄付金、10,000円
- 所得税、3,200円減税
- 実質負担、6,800円
大阪府・大阪市ともに、東京都交響楽団は、住民税の減税対象に指定されていません。
減税のなるのは、国の税金である所得税だけです。
所得税の公益法人特例を選択すると、3,200円が減税になります。
結果として、大阪市在住者が、東京都交響楽団に1万円の寄付をすると、3,200円の節税効果があるので、実質負担は6,800円です。
ちなみに、「関西フィルハーモニー管弦楽」は大阪府指定、「大阪フィルハーモニー協会」は大阪市指定の公益財団法人です。
この2つのオーケストラへの寄付なら、大阪市在住者は、府民税と市民税の両方が減税対象になります。
具体例3、東京都墨田区在住者が日本フィルに1万円を寄附
寄付結果のまとめ
- 寄付金、10,000円
- 所得税、3,200円減税
- 住民税、320円減税(都指定分)
- 住民税、480円減税(区指定分)
- 実質負担、6,000円
所得税は、公益法人特例を選択すると、計算式は、
【(寄附金の合計額)ー(2,000円)】x 40%
寄付金が1万円なら、3,200円減税されます。
日本フィルハーモニー交響楽団は、東京都の都民税減税の指定団体です。
さらに、墨田区から、区民税減税の団体としても指定されています。
(都民税減税)=【(寄附金の合計額)ー(2,000円)】x 4%
(区民税減税)=【(寄附金の合計額)ー(2,000円)】x 6%
つまり、都民税・区民税の合計で、住民税が800円、減税になります。
結果として、東京都墨田区在住者が、日本フィルハーモニー交響楽団に1万円の寄付をすると、3,200円の節税効果があるので、実質負担は6,800円です。
具体例4、東京都港区在住者が日本フィルに1万円を寄附
日本フィルへの寄付は、港区民は、墨田区民より、減税額が少なくなります。
寄付結果のまとめ
- 寄付金、10,000円
- 所得税、3,200円減税
- 住民税、320円減税(都指定分)
- 実質負担、6,480円
日本フィルは、港区では区民税減税の指定団体ではないので、区民税の減税はありません。
港区民の場合は、日本フィルへの1万円の寄付で、実質負担は6,480円です。
記入例、確定申告書への書き方
公益法人特例を活用した寄附金控除の、書き方の具体例を紹介します。
確定申告書「第一表」
「税金の計算」の欄の「政党等寄付金等控除」の項目に、税額控除の金額を記入します。
確定申告書「第二表」
「住民税・事業税に関する事項」の「寄付金税額控除」の欄、「条例指定分」に寄付した金額を記入します。
「都道府県」指定分と、「市区町村」指定分を区別して、それぞれを記入します。
また、公益法人特例を活用した場合には、「特例適用条文等」の欄に、「措法41の18の3」と記入します。
国税庁HP「確定申告書作成コーナー」
国税庁HPの「確定申告書作成コーナー」を利用すると、金額などを入力するだけで、簡単に寄附金控除の確定申告書を作成できます。
「政党等寄附金等特別控除」の項目の入力を選択
「政党等寄附金等特別控除」の項目から、寄附金控除を入力できます。
寄附金控除、政党等寄付金等特別控除の入力画面
寄附年月日、寄附金の種類
まずは、寄付をした日付を入力します。
「公益社団法人又は公益財団法人に対する寄附金」を選択します。
住民税の該当を選択
「都道府県」の条例指定
「市区町村」の条例指定
住んでいる「都道府県」と「市区町村」の条例指定がある団体かどうかを選択します。
寄付金の金額と、寄付をしたオーケストラの所在地、名称を記入します。
公益法人の特例を、自動的に選択してくれる。
寄附金控除の基本か、公益法人の特例か、所得税が最も少なくなるように自動で判定してくれます。
高額所得者以外の、ほとんどの人は公益法人の特例になります。
公益社団法人等寄付金特別控除額の計算明細書
公益法人の特例が適用されると、「公益社団法人等寄付金特別控除額の計算明細書」を自動的に作成してくれます。
この計算明細書も、確定申告書に添付して一緒に提出します。
<参考>国税庁タックスアンサー
- No.1266 公益社団法人等に寄附をしたとき
- No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)